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「先生じゃあるまいし……しませんよ、そんなこと」
他に誰もいないのでそう言ってやると、額田先生はお、と少し目を見開いた。けど、その表情はすぐに不敵な笑みをかたどる。
「……坂田くんのスケベ」
やたらいい声でそう言って、額田先生はアルミサッシのドアの向こうへ消えて行った。
つん、と流華さんが俺の袖口を引っ張る。
「……仁志くんて、度胸あるよね」
「そう?」
額田先生の椅子に流華さんを座らせ、俺はパイプ椅子を広げる。
「最近判ったけど、額田先生には羞恥心ってものがないみたいだから、少しくらい平気かなって」
「確かに……」
まだ温かい焼きそばを机の上に広げながら、俺達はゆっくりと食べ始めた。
今日はあったかいし、窓は開けたまま。そこから見えるにぎやかな校庭は、こことはまるで違う世界だ。
「懐かしいなー。ここの生徒だった頃、あたし体育館のライブイベントに出たんだよ。にわかボーカルだけど」
「へえ、そうなの?」
「うん。ほら、前に仁志くんをライブに連れてったじゃない? あれ、その時のメンバーのひとりのライブだったの」
「ふーん。今でも仲いいの?」
「まあね。メールで近況報告とかする程度に」
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