千切れそうだと思った。

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 ……いた。  何を探していたわけでもないのに人ごみの中、瞳がそこに勝手に吸い寄せられる。  その瞬間、たった今感じていたことすべてが吹き飛んだ。何も、かも。 「……仁志くん?」  流華さんの声と、手に触れた彼女の指先の感触で、はたと我に返った瞬間、とにかく自分という存在に虫唾が走った。ゾワリ、と肩と腕に寒いものが走る。  ゆっくりと、流華さんの顔を見た。今の一瞬で、俺自身が何か変わったわけじゃない。  ただ──思い出さないようにしていたことを、思い出してしまっただけだ。  ……今、外に愛美さんが、いた。  流華さんの顔を見ながら、俺は途端にまた罪悪感を抱えてしまう。口には出してないけど、俺はこのひとが好きだ。たまらなく。  中学生の頃のトラウマを、まるで奪うようにして拭ってくれたから?  いいや、そうじゃない。このひとと抱き合ったりするようになる前から、惹かれてた。それだって、とっくに認めてしまってることで。 .
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