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「……ごめんなさい、あの噂流したの、私なんだ……」
……話の流れで、多分そう言われるんだろうな、ということは判った。
けど、その噂は夏のうちに立ち消えたようだったし、長倉さんがそれを盾に迫ってきたこと以外、大して実害はない。ほとんど忘れていたし。
「別に、今はもう何ともないし、いいけど……」
保健室で流華さんが待っている。
彼女とどんな顔をして会えばいいかと考えると少し気が重い。そんな複雑な身としては、申し訳ないけど西川さんの罪悪感にまで構いたくなかった。
「でも、違うの。私が千佳の男友達に遠まわしに話したのは、お姉ちゃんのことだったんだけど……い、いつのまにか、それが私ってことになってて……」
最後の方は、ほとんど消え入りそうな声だった。その声が、急に気の毒に思えた。
応えられないとはいえ、自分のことを好きだと言ってくれていた女の子に対して、今の俺は冷たすぎやしないだろうか、と。
必要以上に優しくする必要はない。俺にそんな期待はしてない、と西川さんが言ったところで、こんな風に冷たくされたら他の誰にそうされるより、痛く感じてしまうはずだ。
去年の今頃、ずっと愛美さんの横顔を見ていた健気な自分と重なって見えた、なんて失礼だろうか。
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