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保健室の前の廊下まで来ると、流華さんが開け放したアルミサッシにけだるげにもたれて立っている。マスカラで彩られた天然の長い睫毛が動いて、その奥の瞳が俺を見つけた。
「……お疲れ様」
ふわ、と流華さんは微笑む。その笑顔がいつもと同じことに癒された。
心の中が穏やかでないのは俺だけなんだから、当然といえば当然なんだけど。
そう、濁った気持ちは今は少しだけ底の方に沈んでしまって、上澄みが綺麗になっていくような──そんな気分だ。
結局それはさっきとは何も変わりがないということなんだけど、本当の気持ちが顔に出ないというのは充分にありがたいと思う。
「ごめん、遅くなった」
「ううん。帰ろっか」
流華さんは何の躊躇いもなく俺の手を握ると、保健室の中を振り返った。
「彼、来たんで。帰りますねー」
すると、中からおう、と額田先生の声が聞こえる。俺が首を傾げると、流華さんは俺の手を引いて昇降口へと導いた。
そのまま暗い駐車場の方へ出ると、流華さんは俺を振り返る。
「佐奈ちゃんと、そのお友達がいたから。あたしも何だか居づらくて」
ふうん、と聞き流しそうになって、ハッと流華さんの顔を見た。
「……佐奈さんの友達?」
「うん」
俺の手を引いたまま、流華さんはふいっと背を向けて歩き出す。
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