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その背中に、“違和感”って字が書いてあるのが見えた気がした。それくらい、流華さんの態度はあからさまだった。
通用口の門を抜けたところで、俺は流華さんの手を握ったまま立ち止まる。
え、と小さく声を上げながら流華さんがその場でつんのめった。そこに若干の焦りの感情を見つけて、俺は少し苛立った。
「……佐奈さんの友達って誰?」
「知らない。初めて見た子だったし」
「あのね、俺、佐奈さんのこと結構よく知ってるんだよね」
「……」
「誰に、何を聞いたの?」
すると、前に進もうとして力の入っていた流華さんの手が、ダラリと下がった。その手を離さずに俺はじっと流華さんを見つめる。彼女は小さく息をついて、俺を見上げた。
「……もう……せっかくうまくごまかしたと思ったのに……」
「話して」
そのまま流華さんの手をぐいと引いて、顔を近付ける。すると、目の前の瞳が潤んで揺れた。その瞳が、俺のことを好きだと言っている。
……いつだってその瞳にならほだされてあげるから、嘘はつかないで欲しい。
しばらく沈黙したあと、流華さんの薄めの口唇が小さく動いた。
「……愛美って呼ばれてた。だから、判っただけ。額田さんも佐奈ちゃんも、何も言ってない」
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