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それを見て、別に“いい気味だ”なんて思ってしまえる程馬鹿じゃないつもりだけど、少しだけ……ほんの少しだけ、そのまま声を上げて泣いてしまえばいいのに、と思った。
「ひどいこと言うのね」
「ひどい? 何が?」
さらりとかわして、ぬるくなってきたココアを半分程一気に飲んだ。カップの底がちらりと覗いて、そこに沈んだココアがどろどろ溶けながらついて来る。
「今、俺が嫌なオトコノコに見えてるなら、そうさせるのは俺の目の前の女性だってこと、忘れないでね」
「嫌な……って。そんなこと思ってないけど、ただ私は、今だから言える話をしたくて……」
さなえさんの矛盾なんて、可愛いものだと思う。
これで、俺が何も知らずにただ街でただバッタリ会っただけだったら、聞き流せたんだけどね。全部。
口ごもるさなえさんの顔を俯き加減で見つめながら、クッと小さく笑ってみた。言いたいことがあるなら、言った方がいいに決まってる。特に、女の人は。
「……それに、往生際が悪いと思ったの。斉木くんに頼もうと思いついたとき。そこまでして私は14歳の男の子が欲しいのか、って」
「我に返った、ってわけだ」
「身も蓋もない言い方をすれば、そういうことね」
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