祓師(はらいし)

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黒有栖は祝詞(のりと)を挙げ始める。澄んだいい声だ。思わず聞き入ってしまう。この祝詞は身清めの祝詞。自分と社にいる全員を清める為にとなえられたものだ。 依頼人のオヤジの前に黒有栖は静かに座った。 「私の前では嘘偽りはつかないでいただきたい。そうでなければこの祓いお断りいたします」 「嘘はつきません。お願いします、お願いします」 オヤジは頭を床に擦りつけて哀願した。 黒有栖はスクっと立ち上がると榊(さかき)をオヤジの頭上で振った。 「では、お悩みを伺いましょう」 静かに落ち着いた声で話す。 「今度の参議院選挙で立候補するのですが、選挙事務所の人間が次々と襲われる事件がおきまして・・・」 「ほほう・・・いつ頃からですか?」 「立候補した日から始まりました」 「一つ一つ事件を詳細に教えていただけますか?」 オヤジはわなわな震えていた。そうだ、この人国会議員だ。 テレビで見かけたことがあるし、有名ではないがそこそこ顔は知れている。 下座に控えているのは、おおかた秘書と言うことになるか。 「なるほど」 「人に恨まれる事はしていませんか?」 「それは・・・こんな職業をしていますと自分が思ってもいない所から逆恨みを買う事も多いと思いますが・・・」 「あなた・・・人を殺めてる」 「・・・・」 議員は絶句した。秘書たちはお互いの顔を見合わせた。 「嘘はやめていただきたいと申し上げたはずです」 「あ・・・あれは勝手に自殺したんだ。私のせいじゃない」 「自殺・・・ですか?」 黒有栖・・・いつもと表情が全く違う。清廉な感じがいつもはしているのに、今は眼に魔が宿っている。 「あなたの左肩重くありませんか?」 「ええ、肩が重くて頭痛に襲われますが・・・この頃体調も悪いし」 「そうでしょうね、一家3人憑いてますよ」 「ひぃぃっ!!」 議員は後ずさりして顔面蒼白になった。 「あなたに殺されたみたいですね。そこの秘書のお二人に殺らせたんでしょ。そう言ってます。消えた方々も何らか関与してるから消したといってます。間違っていますか?」 「そっそれは・・・」
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