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「靫は母の名だ。母の名前は有栖川靫。実家は伊勢神宮・宮司の家の一つで、柚木の名前になっても自分の家名を残したかったのだろう。
それが彼女のプライドだったのかな。
それでボクの名前を実家の姓である有栖川家からとって『有栖』と名付けた。靫は母の名を名乗っている。
母の力を色濃く受けついているのが靫、ボクは柚木の力を受け継いでいる。
もちろん両方同時に使う事も出来るのだけど、力が相入れない所も多いので仕事を分担しているというのが実情だ。
悪霊祓いは靫の力が発揮できる仕事の一つだ。靫と僕は二重人格と言っていい、一つの身体に二つの魂が同居している状態なんだ。僕が霊力を遣いすぎて記憶が無い時に靫が入れ替わっている事もあるという。
神器を使うには霊力の消耗が激しい。使わずに払えるのが一番なのだが・・・相手がかなりの強い悪霊の場合は使わざるをえない」
ここまで話して有栖は一呼吸入れた。
「有栖が靫の時、意識はないのか?」
「意識がない時、靫が勝手に活動してる時もある。さっきみたいな仕事の時とかはボクもちゃんと記憶がある。靫はどうなんだ黒兎?」
「私は…分かりかねます」
黒兎は言葉を濁した。
「お前は靫と関わりが深いだろう?ボクより…」
「そんなことは…」
なにか奥歯にモノが挟まった様な言い方をした。
「ボクの話はこれくらいでいいか?あまり自分の事を話すのも気分のいいものじゃない」
有栖は眼を伏せた。まぁ、そうだろうな。
二重人格とかそんな事言いたくなかっただろうし。もう聞きだすのはやめよう。仕事をしているうちにわかってくるだろうから。
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