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その夜、自己嫌悪で眠れなかった。
石川くんが言う通り、俺は有栖を好きになっている。有栖の代わりに・・・危うく靫の襲うところだった。
プライドが高くて、清廉な有栖にこんな気持ちを抱くなんて。
あくまで主従関係なんだ。仕事のパートナーなんだ。
この胸の裂かれるような痛み。これからもずっと有栖の傍にいる為には自分を殺していかなければならない。
ラテがすり寄ってきた。
『十六夜、また泣いてる』
『ごめん、ずっと馬鹿みたいに楽天的に生きてきたのにな・・・こんなに胸が苦しいなんて』
『病気にゃ?』
『ある意味、病気だな』
恋煩いというやつか・・・こんな切ない気持ちは初めてだった。
いつも一人だったはずなのに・・・星空を見ながら溜息をつく。
まだ柔らかい唇や舌の感覚がよみがえって自分が高揚してしまうのが情けない。
くそっ!
靫の妖しげな眼・・・有栖の顔・・・もし靫が言う様に明日有栖が起きられたら、俺はどんな顔で会えばいいんだろう。考えただけで恥ずかしくなる。
朝食の時、七夜に聞くと有栖はまだ起きてはいなかった。落胆と同時に少しほっとした自分がいた。
「お前が若に変な事を云わなければ」
黒兎が苦虫を噛んだような顔をして俺を睨みつけてきた。
「まぁまぁ・・・黒たん、生徒を助ける選択をしたのは有栖なんだよぉ。十六夜クンだけのせいじゃないでしょ」
ふんっとそっぽを向いて食事をした。黒兎に嫌われても仕方ないな。しばらく口もきいてくれそうにない。
あげはは俯いてる俺の頭を撫でに来た。相変わらずの無表情だが本当に心配していた。
『十六夜のせいじゃないの、あげは知ってるから』
『ありがとう』
あげはのおかげで少しは気分が和らいだ。
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