誘惑

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《十六夜side》 寮に帰るとそのまま布団に潜り込んだ。今日は土曜日で午前中の授業だが出たくなかった・・・結局ズル休み。   午後になって石川くんが部屋を訪ねてきた。 「棚葉くん、大丈夫?」 「あ…うん。平気。午前中ダメだったんだけど寝たら大分いい」 ウソが口をついて出てくる。この間から嘘ばっかりついているな。 有栖から嘘つきと言われた言葉が頭の中でこだましている。 「疲れが出たんじゃない?今日のノート置いてくから…月曜日返してくれればいいよ」 「石川くん、恩にきります。優しい友達がいて良かったぁ~」 「ヤだなぁ、棚葉くん。友達なら当然だろ。早く元気になってね」 石川は手を振りながら部屋を出ていく。 『アイツ、十六夜の友達にゃ?』 隠れていたラテが出てきて聞いてきた。 「うん。なんで?」 『んー、なんでもにゃい』 なにか奥歯にモノが挟まった様な言い方だ。   ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 部屋で一人でいると昨夜の靫との情事を思い出してしまう。 明日、仕事の時どんな顔をして会えばいいのか。靫と寝たことはすぐ有栖に知れるだろう。朝、自分の身体に残る情事の痕跡を見るだろうし・・・。 明日になるのが怖い。 日曜日の為に仕事の準備をする。道具は手入が大切だ。刃物はよく研いでおかなくてはらない。 両刃のモノは相手にもダメージを与えられるが、もし使い方を間違えれば自分も手の一本くらいは軽く飛ぶ。 集中しなければミスを侵しかねない。今は仕事に集中しなければ・・・それだけを考えよう。たぶん仕事の前にわざわざ有栖が色々言ってくる事はないだろう。 そういう事はわきまえているヤツだ。 終わったら何を言われても仕方ない。自分はひたすら謝るしかない。
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