不思議の国の皇子

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有栖が七夜を呼ぶ。影からスッと現れてびっくりする。 「お部屋の方にご案内いたします。荷物は明日、寮の方に取りに伺いますので・・・猫のごはんも取り揃えましたのでなんなりとお申し付けください」 さすがの身のこなし・・・・まだ20代後半位?なのに落ち着いていて大人の男性だ。 「あの・・・」 「なんでございますか?」 「七夜さん、なんか俺で役に立つ事があれば言って下さい」 「は?」 「俺も雇われの身だし、屋敷広いし、仕事有れば手伝いますよ」 「御親切ではございますが、メイドもいますし雇われているとはいえ、白兎様や黒兎様、あげは様同様、別のお仕事がおありでしょ?そちらに専念された方が良いかと・・・」 「そう・・・ですよね。失礼しました。こう・・・身の置きどころが無いというか、場違いなトコいると働かないともて余しちゃうんですよね」 七夜はにっこりと笑顔で 「お優しいのですね」 いや、優しいのではなくて・・・この屋敷に住むのに抵抗があるだけだ。 下々のものが住む所じゃない気がして・・・。 「あのウサギ兄弟もあげはちゃんも住んでいるんですか?」 「ええ、皆様お部屋がございます」 「その他に有栖の両親とか住んでいるんですか?」 「いえ、殿の御両親は亡くなっています」 「・・・・すいません。余計な事聞いて」 少し沈黙があって七夜が答えた。 「殿の前では御両親の事は云わないでください。とても取り乱されますので」 「わかりました。俺も両親が死んでいるから気持ちはわかります」 「その点はくれぐれも宜しくお願いします」 触れられたくない過去は誰にでもある事位は鈍い俺でもわかる。この家の主をアイツ一人で背負っているんだな。あんな可愛い面して・・・人は見掛けによらない。 女みたいで、高飛車で、嫌なヤツだと思ったけど、そんなことないのかもな。 見掛けで有栖の事を判断したことを悔いた。これからこの屋敷で本格的に仕事が始まる。 自室だと通された部屋は寮より何倍も大きかった。 天蓋つきのベッドはどうみてもダブルベッドで枕が二つ。机や家具一つ一つが高級感漂うレトロなものだった。 こんなとこに寝た事ないや・・・お姫様みたいやな、眠れるかわからん。 あきらめにも似た苦笑が漏れた。
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