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「釜田(かまた)。待たせた!」
キュッキュっと廊下に音を立てながら、八重子さんを呼ぶ声が私の後方から聞こえてきた。
――救世主だ!!
そう思ったと同時に、私の頭の中に2つのことが浮かんだ。
一つはこの人はもしかしてトキ兄なんじゃないか? ということ。
私がO型の血液型候補に挙げて、真田君は八重子さんに聞いてみるって言ってたから来てくれる可能性はある。
そしてもう一つがとても不思議で仕方ない。だって私、この声を知ってる気がする。
すごーくこの声を、聞いたことが……いや、聞いている気がするの。
それも、毎日。
そしてその答えについて、私が振り向くよりも先に一つ解決した。
「トキ兄! 来てくれたんだっ」
目の前に立つ八重子先輩が、私の後方に向かって手をあげて振っている。その声はさっきのどす黒さを一気に吹き飛ばした感じで、とても元気で明るくなった気がした。
それにはっきりと『トキ兄』と言ったから、私の一つ目の疑問は解決した。
――うわ、本当にトキ兄来ちゃったんだ
もしかしたら会えるのかもしれないって期待が現実になって、まだ顔も見ていないのに心臓がバクバクし始める。
それは、さっきまでの海人さんの安否が気になってた時のドキドキとは違っていて、トキ兄にもう一度会えるという喜びのドキドキだ。
言葉にはし難いいろんな想いがごちゃごちゃになって、すっかり海人さんのことなんて吹き飛んだ私は、ただただ後方から走ってくる存在に胸を躍らせながら、何かに祈るような気持ちで両手を合わせて握りしめた。
走ってくる気配が近づいて、背後に立つのを感じる。
そうして私はゆっくりと身体を反転させて顔をあげると、その人を見て凍りついた。
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