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汗ばんだYシャツが気持ち悪かった。南校舎の一階は、コピー機のガシャガシャいう音と、蝉の声でごった返していた。開け放した窓から強い風が吹き込んできて、私の髪をさらう。風が吹いてきた中庭の方へ目をやった。
向かいの北校舎の窓辺では人影がうごめいている。視線を戻そうとした瞬間、飛び込んできた光景に思わず足を止めた。
四階の窓から、少女の姿が現れたと思う間もなく、その体は地面へと急降下を始めた。
目を逸らそうとするのに、不思議な力がそれを許してくれない。なぜだろう、私はいつか同じものを見たことがある。ぼんやりとそんなことを思った。
ほんの数秒のはずなのに、落ちていく少女の姿はスローモーションのように見えた。そして、逆さまの少女と立ちすくむ私の視線の高さが同じになる。少女と目が合ったのがわかった。
今まさに死を迎えようとしている少女は笑った。瞬間、とてつもない恐怖に襲われる。
私だ。あれは私だ。落ちていった少女は、四階から飛び降りたのは、私だ。ならどうして私はここにいる?
少女、いや、自分が落ちた場所へ視線を移した。──そこには何もなく、誰もいなかった。なんだ、幻かと自嘲し、荒くなった呼吸を整えながら一歩踏み出した。もうとっくに、コピー機の音も蝉の声も聞こえなくなっていた。
けれど足は床には着かず、体は急降下を始める。そこで私は総てを理解した。あそこで少女が私を見ている。次にはまた私があそこに立ち、そしてまた落ちて死ぬのだ。
生と死は交差し続ける。本当の私が未来を選択するまで何度でも。
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