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不機嫌を絵に描いたような表情でハンドルを切り、沈黙を守ったままの車内は緊張という重い空気が充満していて、なかなか家に帰り着かないことがもどかしい。
全然家の近くの景色に辿り着かないけど、なんだか聞くに聞けなくてずっと窓の外を眺め続けた。
いつもみたいに下唇をちょっと噛んでから、吉岡さんが小さくため息にも似た息を吐いた音が聞こえた。
「腹減ったな……」
先に口を開いたのは吉岡さんで、さっきまで力いっぱい握られていた右手が少し楽になった。
「そ、そうですか」
「どっか寄っていくか? って言おうと思ったけど……帰りたそうだな。今日はこのまま送っていくよ」
ふって力なく笑って、少しスピードが上がったのがわかった。
出来るならもっと一緒にいたいけど、今の空気のままで一緒にいるのは苦しい。
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