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残された私は、頬に残るちょっとごつごつした指の感触とか、手のひらの熱さとか、ふわっと香った香水とタバコの香りとか、どう理解したらいいのかわからなくてしばらく動けそうにない。
本当はあのまま吉岡さんが好きですって言いたかった様な気がするけど、電話に中断されてホッとしているのも事実で、やっぱりそこまでの度胸は無い。
心の準備も出来てなかったのに、吉岡さんが急に抱き寄せたりなんてするから、思わず告白してしまいそうだった。
人生初の告白が混乱の末の衝動だなんて、ある意味さっきの電話の相手に感謝したい。
もし吉岡さんが電話を終えて戻ってきたら、さっきの続きを聞かれるかもしれないと思うといたたまれなくて、必死で逃げるようにその場から立ち去った。
『吉岡さんが好きです』
なんて、玉砕確実なのに言えるほど残念ながら強くなれそうにない。
その上来週から1週間会えないと思うと、胸がきゅって苦しくてもう泣きそう。
* * * * * * * * * * * *
茜が何か言いかけたその時、ちょうど掛かってきた取引先からの電話のせいで、結局何を言いたかったのか聞けずじまいだった。
たいした話じゃないんだから月曜日に会社に掛けてくればいいのに、こんな時に限ってわざわざ携帯に掛けてくる。
適当に話を合わせて早々に切ると、とりあえず気分転換も兼ねて喫煙室に向かった。
今すぐ戻って茜に続きを聞きたい気がするけど、何を言われるのかちょっと緊張しているから、一服して気持ちを落ち着けよう。
愛の告白?
それは多分無いな。
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