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ーー午後四時半。
霧雨の中、寂れたビルの屋上で一人の男が佇んでいた。
襟足まで伸びた漆黒の髪、細身の体を黒い装束とマスクで口元を覆い、まさに忍者と言うべき存在であった。
今の時代にそぐわない格好である彼は、遠くを見つめながら溜め息を吐いた。
「いつまでこの世に居るんだ?」
薄暗い屋上の中にぼんやりと浮かぶ白い“物体”に呟いた。それは彼と同じく異質な雰囲気を放ち、どこか震えながら彼の問いに答えた。
「捨てられない想いがあるからだ......」
「そういうの断ち切ってさっさと逝っちまえばいいのによぉ」
そう返す彼に白い物体ーーサラリーマンの幽霊は更に怖じ気ついた。だが、幽霊はふと疑問に気付く。
「お、お前こそ未練があるからここに居るんじゃないのか? え、偉そうに言うな!」
言い返せたぞと安心したのも束の間、此方を振り向いた“忍者”の顔は険しい顔であった。
完全に震え上がった幽霊に近付き、顔に触れたかと思えばそこに居たはずの幽霊はどこかへ消えてしまった。
「これだから未練タラタラの男は嫌いだぜ」
ふぅ、と溜め息をつき、空を見上げる。一向に止まない雨は頬を濡らし、何時もと変わらない日常を少しつまらないと思った。
「さて、次はっと......」
しょうがないかと纏め、切り替えを行う。
この世に居るべきではない存在を探すため、辺りを見回す。
すると、微かに異質なモノを感じ取った。明らかに普通の幽霊とは違うもので、そして自分達とは違うものである。
放って置くべきではないと思い、その存在の元へと急いだ。
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