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「それなら、今から現場に案内してもらえませんか?」
「え? 今からですか?」
啓志の申し出に、問い掛けられた本人より早く夕姫が反応する。啓志は『あぁ』と呟きながら左腕に付けている時計に目を向けた。ターコイズブルーのベゼルに白い文字盤のシンプルな時計が指している時刻は十六時二十三分だった。
「大丈夫です。一応、確認したいだけなので」
夕姫の助手としての活動は彼女の両親の希望により日没までとなっている。彼女が気にしていたのは、そのことだろう。啓志の答えに安堵の表情を浮かべた夕姫は、質問の対象者に改めて目を向けた。
「大事なことなんです。よろしくお願いします!」
なかなか返事をくれない佐藤に、啓志は深々と頭を下げた。現場は早めに確認するに越したことはない。それが彼女の証言通り路上であるならば尚更そう言えるだろう。幸い先ほどまで降っていた雨は止み、灰色の雲の隙間から日差しが顔をのぞかせ始めている。
ただでさえ雨で流れた可能性のある証拠が、更に飛ばされたり踏みつけられたりしたら、捜査は間違いなく難航する。そうなると、意図せずに真実がねじ曲がってしまう可能性がより高まってしまう。熱心な啓志の姿に佐藤は何度か細かくうなずき、ようやく肯定の答えを返した。
佐藤の反応に笑みを浮かべた啓志は、待っていましたと言わんばかりにすぐに口を開いた。
「それでは、善は急げです。早速出発しましょう」
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