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がに股気味に自身の鞄に近づくと、チャックを開けてすぐの所に収められていた紙パックの珈琲牛乳が顔を出した。短髪の住人は投げるようにして好物を渡す彼女の顔を一瞥し、会釈をして添付されているストローを挿した。少しいたたまれなくなったのか、窓の外に目を向ける。
「なんというか、気分を害したのなら謝ります」
「そういう謝り方なら開き直られた方がまだマシですよ」
「んー、そうですか」
踵を返して笑う少年に、少女は溜め息混じりにボソッと呟く。
「……それより、先輩が本を読んでおられたということは、今日も、依頼はないんですね」
「そんなことはありませんよ。学年主任の真下先生から飼い猫の捜索を頼まれました」
嫌みったらしく、も、を強調した言葉を放った彼女の思惑は功を奏さず。したり顔で依頼書と印字しているB5サイズの紙を右手の人差し指と親指で摘むようにぶら提げた。とはいえ言い返された彼女の方も、さして悔しがることもなく、あぁ、と頷いた。
「ミーちゃん、また脱走したんですね」
「まぁまぁそう言わず。月1のお得意さまですよ」
どうやらこの2人。本人のいない所で学年主任の管理能力を疑問視しているらしい。毎月の恒例行事のようになっている現状に、仕事を与えられている喜び以上に手間を感じているのだろう。しかし、そんなに頻繁に脱走するなら、完全に室内飼いにしてしまってはどうかと何度か提案したが、絵に描いたような暖簾に腕押し、糠に釘であった経験が、彼らをある意味諦めさせていた。
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