二章 カラマル

40/54
29人が本棚に入れています
本棚に追加
/162ページ
 啓志が降り立ったのは、柏野基(かしのもと)と言う名前の無人駅。表にあった住所の最寄駅である。ただし、ここから五km程の徒歩が必要なのだが。隣県とはいえ鈍行での移動はやはり骨が折れる。乗り換えを挟んで二時間の道のりの終わりに、自らの固まった体を労うように伸びをしたり前屈をしたりして解していった。 「いてて……。さぁ、行きますか」  腰に手を当てながら、自らに言い聞かせるようにして呟く。駅の敷地を出ると先ほど見えたシャッター街が広がっており、そこを抜けると左手には森や田んぼ、右手には飛び石的な間隔で民家が並んでいた。田んぼは既に収穫を終えており、支柱に干し台を引っ掛けて天日干しされている。秋の深まりを知らせる百舌鳥(もず)の甲高い鳴き声も聞こえてきていた。  そこで、今日は共に来れなかった宮越の言葉を思い出す。お互いに県を跨ぐことを許さない警察と、冬に向けて縄張り争いをする野鳥。どこか通ずるものを感じる気もするが、きちんと分けることによって統率が取れたり責任がはっきりしたりする利点もあるので、一羽で戦う百舌鳥とは、また別物なのかもしれない。  そんなことを考えながら、スマホのマップを見て歩いていた。人とすれ違うこともなく目的地に近づいてきた頃。 「なんだ……。煙いな」  焦げ臭い匂いに周囲を見回す。左手の方向から、微かだが煙が上がっているのが見えた。 「あの辺って、まさか!?」  目的地とほぼ重なっていると思われる場所から上がった火に、啓志は走り出した。緊急通報の機能を使って、消防にも通報を入れる。
/162ページ

最初のコメントを投稿しよう!