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自称探偵の高校生に相談するようなことだ。聞いてもらったら案外すっきりして、自分を削られるように感じていた大きな問題が、実は蹴り飛ばせるほど小さなものだと気づくことだってあるし、問題自体がなくならなくても見方一つで日々の笑顔を取り戻せることだってある。事実は変えられなくとも、その事実をどのように受け取るかは自分の選択する権利だ。手放すのは勿体無い。
事実、啓志の探偵業の中で悩みを聞くというのは割と多い分類の仕事だった。変わり者の視点は意外と喜ばれ、人目を避けて意見を聞きに来る人は猫の捜索より少し低い頻度で、それでも一定数定期的にいた。そういうことで佐藤が話し始める前には慣れた手付きで制服の内ポケットから小さな手帳とボールペンを取り出し、話を聞く準備を整えていた。
「その、実は……昨晩、殺人を……」
「へ?」
しばらくの沈黙が訪れた。
それもそうだろう。啓志がいくら相談を受けてきたとはいえ、刑事事件に関して相談されたことなど未だかつてなかった。先生の愚痴がほとんどで、つっこんだところでせいぜい生徒や家庭の悩み程度のこと。ただ、屋上で何かを考えていたことからしてそんな軽い話ではないということに勘付いても良かった気がしなくもない。いや、勘付いてはいたが目を逸らしたかったのかもしれない。
確かに大きな事件と対峙することは望んでいた。だがそれは、あくまでも想像の世界で巡らせていた無責任な妄想。それが、ごっこ遊びのような甘く単純なものであったことを、彼自身が今まさに感じているだろう。とはいえ、依頼人の前でいつまでも狼狽えているわけにはいかない。
「さ、殺人ですか」
「間違いなく、私が……」
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