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確認のために尋ねようとしていた啓志の言葉を遮るように、意を決した面持ちで頷き肯定する。
「と、とりあえず部室に戻りませんか?」
いよいよ継ぐ言葉に窮している啓志を見かねて、夕姫が提案した。安堵の表情を浮かべた彼を見てから、視線を佐藤に向ける。
「そうね。ここだとこれ以上は話しにくい、かな」
佐藤も提案に同意して、三人は歩き始めた。道中の沈黙は必然。佐藤と夕姫を引き連れる形になってはいるが、啓志の心中は穏やかではないだろう。静かに深い息を吐いてこの先のことをぼんやりと考えているようだった。
◆◆◆◆
部室に戻ると、先ほど噴出させてしまった珈琲牛乳の香りに出迎えられた。頭をかきながら現場に近寄った啓志は、制服の上着の右ポケットから濃紺のハンカチを取り出して拭き始める。
その間に夕姫は、佐藤が座るためのパイプ椅子を啓志の机の正面に向かうような形でセッティングし、着席を促した。
「えっと、レモンティーで良いですか?」
「えぇ、ありがとう」
座っている状態で尋ねられた佐藤は答えながら立ち上がろうとしたが、夕姫はそれを手で制してから彼女に背を向ける。気遣いを受け取った佐藤は素直に座って待つことにしたようだ。部室に入ってすぐに渡された純白のタオルで濡れた髪やスーツを丁寧に拭いている。
「先輩も、同じもので良いですか?」
「力を不意に入れてしまっても大丈夫なカップに入っていれば何でも構いませんよ」
佐藤の分を入れ終えた頃、ようやく拭く作業を終えた若竹は、すっかり茶色が染まったハンカチをぶらぶらさせながら答える。
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