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「ふふ、分かりました」
自虐的なネタに思わず笑みを浮かべた夕姫は、彼にカップを持って行く時にどこからか取り出した透明なビニール袋も手にしていた。黙って差し出すと、
「ハンカチ、洗ってきますよ」
と言いながら袋の口をぐいぐいと彼に向け、シャカシャカ音を立てながら詰め寄る。どう答えるべきか思案していた啓志だったが、
「どうせ今日は猫探しで洗えないんでしょう? たまには助手を使ってください」
と言う夕姫の押しに負けて、ハンカチを袋へ入れた。そんな二人のやり取りをずっと見ていた佐藤の視線にようやく気づいた啓志は、わざとらしく咳払いをして両肘を机に乗せて手を交わらせた。
「さて、では先ほどのことをもう少し詳しくうかがってもよろしいでしょうか?」
切れ長の目を一層鋭くして佐藤を見た。雰囲気の変化に気づいたであろう佐藤は、組んでいた足を戻し、飲んでいた紅茶を机の上に置いた。
「どこから話せば……えっと。そうね」
「もちろん学校外での事件ですよね? それなら例えば、校門を出たところからとかで良いですよ」
思い出そうと天井を見上げる佐藤に、啓志は話を繋げてきっかけを与えようとする。
「そうね……。昨日は残って作らないといけない書類があったから、学校を出たのは二十時くらいだったかしら。最近起きてる事件のこともあるし、昨日は車検で車がなくて自転車で来たんだけど、帰りはタクシーで帰ることにしたの」
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