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『じゃあ、僕と水族館デートしませんか?』
彼女の冗談っぽい誘いに、わたしも同調する。
『おしゃれして行きます✨』
3年前の彼女は自分のことを「僕」と呼んでいたが、今は大体「私」と言う。
僕という言葉を使うのは、冗談を言うときか、すごく動揺しているときのどちらからしい。
この前千歳さんにからかわれ、僕は、と口にしているところを見た。
小さな子どものように、どことなく中性的な彼女。
そんなつばさくんを、わたしはすごくかわいいひとだなと思う。
土曜日は、バイトを入れていることも多い日だけれど、今日は特に何もなかった。
わたしはつばさくんと約束した13時までに家事を済ませ、少しだけ来週の英語の予習をした。
待ち合わせは、水族館の入口前。
約束の10分前に着くと、そこには、柱にもたれるようにして立つつばさくんの姿があった。
つばさくん、とわたしは彼女に呼びかけた。
「ああ、十夜ちゃん」
ふわりと微笑む彼女が小首を傾げると、長い髪がそれに合わせて揺れる。
わたしの黒く重たいストレートとは正反対で、つばさくんの髪は光を透かし、琥珀色に輝いていた。
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