梅雨

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今にも降り出しそうな空を眺めながら、わたしは一人でてくてく歩いていた。 一人になると、どうしようもないことを考えてしまう。 夏目君はわたしの何だろう。 父親の役も、兄の役も、友達の役もこなしてくれた。 何で、それだけじゃいけないのかな。 ふと、わたしは初めて夏目君が好きだと自覚した日のことを思い出す。 あれは、春だった。 桜の花びらが雪のように、涙のように、散っていた。 本当に、他愛ない瞬間だった。 桜が舞う中に、夏目君がいて。すっげえ風、と言って笑った。 それを見たとき、わたしは胸が苦しくなってしまって、すごくシンプルに。 好きだな、と思った。 ずっと好きだったんだなと思った。 それ以外に言葉が見つからなかった。
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