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「…あ」
ぼーっとしていて、携帯の振動に気付くのが遅れた。
慌てて電話に出ると。
「―十夜?」
夏目君だった。
不意打ちでの夏目君に、何となく動揺してしまう。
「え、あ、どうしたの?」
「いや、今日勉強会してくるって言ってたけど。帰りの時間どれくらいかと思って」
「勉強はもう終わりました。これから少し土屋君とお茶して帰ります」
「俺もうちょっとで上がれるから、時間合うなら帰り拾ってくよ」
タイミング的には合うかもしれない。でも。
「大丈夫です。家からそんなに遠くないとこだし。土屋君もいるので」
わたしは反射的に断りの言葉を口にした。
ほんの少し、今は夏目君と二人きりになるのが怖かった。
「…分かった。もし迎えが必要ときは連絡して」
「はい」
じゃあ、また後で、と彼は電話を切った。
携帯を閉じて、思う。
夏目君に好かれなくてもいいけれど、嫌われたくない。
空っぽだったわたしをそのまま受け入れてくれたひとに、拒絶されたくない。
そう考えて、携帯を鞄にしまったときだった。
誰かに腕を、つかまれた。
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