梅雨

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「水上!」 不意にわたしの名前が呼ばれ、声のした方に目を向けると。 土屋君が、いた。 「何してんだよ」 次の言葉は、わたしの腕をつかむひとへ向けられていた。 にらむような視線。 駆け寄ってくる土屋君を見て、男性の手が、わたしから離れた。 そしてその人は、後方へと走り出した。 「待てよ」 土屋君は男性を追いかけようとしていたけれど、わたしの前まで来て、わたしを見て止まった。 「何、された?」 問われて初めて、自分が泣いていることに気が付いた。 変質者を追うということより、わたしを一人にしないという選択をしてくれたらしい。 わたしは上手く立っていることができなくて、膝を抱えてしゃがみこんだ。 土屋君は同じ目線に屈んで、子どもにするように、ぽむぽむとわたしの頭に手を乗せた。 怖かったよな、と繰り返す声に、わたしはまた少し泣いた。
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