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『ごめんなさい。やっぱり今日は土屋君とごはん食べて帰ります。急ですみません』
夏目君に宛ててメールを送信すると、わたしは携帯を閉じた。
「ごめんね、付き合わせて」
「気にすんな」
泣いた顔のまま帰るわけにはいかないなということで、デザートだけの予定から、食事付きに変更した。
土屋君のおかげで、大分気持ちも落ち着いてきている。
デザートを食べ終える頃には、何もなかった顔ができるだろう。
「あの道、避けた方がいいかもな。ちょっと遠回りになるけど、すぐ国道沿いに出る方が少しは安全じゃんか」
「そう、だね」
また同じ目に遭ったらと思うと、寒気がした。
「しばらくバイト入れてないんだろ。だったら、一緒に帰る?」
「え?」
「明後日の体育祭終わったら、テストまで部活なくなるから」
そっか、テスト…。
「それも、いいかもしれない。帰り、一緒に勉強するとか」
「はい、センセイ」
どこかしょんぼりと、嫌そうな感じをにじませて、土屋君がそんなふうに返したので、ちょっと笑ってしまった。
ファミレスを出てからは、並んで歩道を歩いた。土屋君が送ってくれると言うので、それに甘えた。
「水上、何か、隠してることあるよな?」
海沿いに差し掛かったとき。
それまでの会話の流れを、全て無視して土屋君は言った。
「別に、話せってことじゃない。何を隠してたって、いい」
確かに、隠している。
わたしの昔のことは、何も話していなかった。
「でも、最近、きつそうな感じだったから。あんま、抱え込むなよ」
「…うん、ありがとう」
結局今日は雨、降らなかったなと思い空を見上げると。
土屋君は、何も特別なことではないように、それこそ天気の話をするのと同じトーンでわたしに言った。
「俺、水上のこと好きだから」
わたしが目をまるくして彼を見ると、彼は、何その顔、と笑った。
「だって、え…?」
「水上に好きなやつがいるのは、知ってる。おまえのことだから、他のやつになんか目が行かないだろうってのも、分かってる。でも、それとは関係なく、水上が好きだと思ってる」
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