梅雨

20/37
前へ
/37ページ
次へ
「夜ちゃん、あたし、夜ちゃんのこと好きだよ」 吐息混じりの声が、やわらかい。 「初めて会ったとき、夜ちゃん、すごくきれいだなって思った。今まで見たことのある、どんな女の子とも違って見えた」 鏡花ちゃんの飴色の目が、わたしを真っすぐに見つめている。 「夜ちゃんの周りだけ、空気が違うみたいに、しんとしていて。最初は分からなかったけど、でも後で、それが悲しいことだって分かった」 わたしは鏡花ちゃんの言葉に耳を傾ける。 鏡花ちゃんは夜の隙間を縫うように話を続けた。 「今は前より、自分を出してくれてるのかなって思うけど。それでも時々夜ちゃんが心配になるよ」 ひとまわり小さな手が、わたしの手をきゅっと握る。 指先から伝わる体温が、温かかった。 「例え夜ちゃんが自分のことを好きじゃなくても。あたしは夜ちゃんが好きだよ。ほんとの家族だと思ってるし、いつだって夜ちゃんの味方でいるよ。夏君も、他のみんなも、同じだから」 だからね、と鏡花ちゃんはこの上なく優しく微笑んだ。 「夜ちゃんは自分のしたいようにしたらいいと思う」 「…うん、ありがとう」 何があったかは知らなくとも、何かがあったと察して、心配してくれている。 わたしのことが好きだと言ってくれる。 それがひどく、嬉しかった。とても、とても、嬉しかった。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加