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「十夜」
呼ばれて振り向くと、至近距離に夏目君がいた。
「今の、学校のやつ?」
「あ、はい。土屋君です。明日体育祭で朝練ないから、一緒に学校行こうかって」
待ち合わせて、ということはなかなかないけれど、土屋君と登校することが今までになかったわけではない。
昨日危険な目に遭ったことは夏目君には言っていないので、今のような返事になったけれど。
別に不自然なところはないはずだった。
「…そう。明日、体育祭終わるの何時だっけ?」
「えっと、片付けして3時過ぎかな。半くらいには帰れると思う」
「ん、分かった。俺、明日この前の振り替えで休みにしたんだけど。学校終わったらちょっと付き合ってもらってもいい?」
この前、というのはGW前に代打で連続出勤したときのことだろう。
「付き合う…?」
「うん、付き合って?」
……。
意味合いは違うけれど、心臓に悪い響きだった。
邪な気持ちを振り払うように、大きく頷く。
「いいですよ。でも、何するの?」
「んー?単純に、最近あんまり十夜と話せてないなって思ったから」
正直、少し避けているところはあった。
記憶が戻ったことといい、昨日のことといい、事件続きだったから。
そういう、自分のぐちゃぐちゃなところというか、どろどろしたところとかは。夏目君には見せたくなかった。
てことで、と夏目君は朝の光の中で微笑んだ。
「明日、デートしよっか」
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