梅雨

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「あ、そう」 土屋君の気のない返事に、わたしは少し冷静さを取り戻す。 「君が言えと言うから話したのに…」 「いや、うん。悪い」 夏目君に言われた、デートという言葉に。 いつになく動揺してしまったわたしは。 会うなり土屋君に、「顔赤い」と言われてしまった。 恋愛に疎い自覚はあるけれど、自分のことを好きだと言ってくれたひとに好きなひとの話をするというのが、どういうことかくらいは分かる。 だから、どうしたのかと問う彼に、何でもないと答えたのだけれど。 ―兄貴と何かあった? あ、マジか。何?いいよ別に。話して。 そんなふうに言うから。さっきの夏目君との会話について話してしまった。 「ごめん、ただわたしが勝手に動揺してただけです」 「つうか、それって…」 「え?何?」 「…絶対教えてやんねえ」 「??」 土屋君の言うことはよく分からなかったけれど、彼と話しているうちに気持ちも落ち着いてきた。 「まあ、そういうことなので、明日はすぐに帰るね」 「分かった。…気を付けてな」 「気を付ける?何に?」 「いろいろ」 上手く噛み合わない会話が一段落した頃、正面に学校が見えてきた。 明日は体育祭に、夏目君とのデート。 身が保つかな、と若者らしくない溜め息をついて、わたしは校門をくぐり抜けた。
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