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そういうふうにして、いろんなことが積み重なっていった体育祭当日。
わたしはアリスの衣装に袖を通しながら、却ってよかったのかもしれないと思い始めていた。
これがもし、体育祭でも何でもない普通の日だったなら。
わたしは夏目君が口にした「デート」という言葉に、もっと振り回されてしまっていただろうから。
少なくとも今はこの衣装に気を取られ、あまり考えずに済んでいる。
「あくまでプラスに考えれば、だけれど…」
覚悟を決め、ワンピースの上に白のエプロンを重ねる。
ちょうどボーダーのハイソックスを身に付け終えたとき。
教室の外から、そっと名前を呼ばれた。
「水上さん、着替え大丈夫?」
「あ、はい」
了承を得て教室に入ってきたのは、近澤さんともう一人、やはり同じクラスの八木さん。
八木さんもまた、応援という名の仮装に参加することになっていた。
帽子屋をイメージした衣装に身を包んだ彼女は、わたしの方を見て猫のような瞳をかわいらしく細めた。
「うわ、いいじゃん。似合う似合う」
「そう、かな…」
「すっごいかわいいよ。ねえ、美香」
話を振られた近澤さんが、首を縦に振る。
「うん。水上さんに頼んで正解」
「じゃあ始めようか」
八木さんが再びわたしに向き直る。
「始める?」
「そう。ちょこっと、髪をいじらせて?」
「髪…?」
「そのままでもかわいいけど、水上さんいつもストレートだからさ。今日はアリス仕様ってことで」
同意も拒否もせずに、流れに身を任せていると。
わたしの髪は彼女の手によってあっという間に、くるくるのふわふわに変えられていった。
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