梅雨

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「はい、できた」 鏡に映るわたしを後ろからのぞき込み、満足げに彼女は言う。 「えっと、お手数かけまして…」 「ううん。なかなかこんな長く伸ばしてる子いないから、楽しかったよー」 同じようなことを、鏡花ちゃんに言われたことがある。 ―夜ちゃんの髪、まっすぐでさらさらで、いいなあ。あたしのは細過ぎてすぐ絡まるんだよね。長くすると手入れが大変だから、伸ばすに伸ばせないしっ。 むう、と彼女は頬を膨らませていたけれど。 わたしはそんな鏡花ちゃんがすごくかわいくて、うらやましいなと思う。 「じゃ、行こっか」 促され、わたしは心の中で気合いを入れる。 長い長い一日の、始まりだった。
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