梅雨

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十数分後に、息を切らして龍之介さんが店に入ってきた。 サングラスで顔が隠されていたけれど、感情はだだ漏れだった。 「ったく、あのやろう…」 龍之介さん、とわたしは彼に呼びかけた。 「十夜」 「お帰りなさい」 「……ただいま」 むすっとしながらも、礼儀には礼儀で返す。 何だかんだ、口は悪いが品の良いひとだ。 「あいつは全く…」 「わたしなら、大丈夫ですよ」 「…思い出した、って?」 ささやくように問われ、はい、とわたしは頷いた。 「本当に、大丈夫か?」 「あのときは、忘れておかないとやっていけなかった。でも今は。今のわたしには、必要な、記憶でした」 「…そうか。なら、いい」 龍之介さんが、わたしにきっかけをくれたのだ。 もう、わたしはそれほど弱くはない。 「あいつ、何か言ってたか?」 「昔話、くらいですかね。あと、連絡先を教えてくれました」 「まあ、悪いやつじゃねえしな。友情再開するのも悪くはないよな」 「はい」 「ただ、あんま仲良くしすぎると夏目が妬くから」 わたしは曖昧に笑った。 それが本当なら試してみたいところだけれど。 記憶が戻ってみて、実感した。 わたしは、夏目君には、やっぱり合わないんだろうな。
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