梅雨

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「ああ、もう、そういうのいいからっ」 帰宅した龍之介さんは、二か月ぶりに会う娘に過度なスキンシップを仕掛けていた。 抱きしめられた鏡花ちゃんは、視線で夏目君にヘルプを出している。 「おまえ、なかなかでかくなんねえな。ちゃんと食ってるか」 「余計なお世話だよっ。早く下ろして」 見かねた夏目君が間に割って入ると、龍之介さんは「はいはい」と鏡花ちゃんを手放した。 「帰ってきて早々にセクハラか」 「親子の触れ合い、だろ。なあ十夜」 急に話を振られ、え?と首を傾げたところ。 頬と耳の境目あたりに。 外国人の挨拶のように。 龍之介さんがキスをした。 「……っ」 くすぐったさに息をこぼすと、くいっと夏目君に腕を引かれる。 「…親父」 「何だ?」 「そういうことすんな」 「んな顔するくらいなら、もっと行動しろよ。俺が前に言ったこと、忘れたのか?」 「…覚えてるよ」 「時間が、いつでも同じようにあると思うなよ。終わるときは、一瞬なんだからな」 何について話しているんだろう。 夏目君につかまれた腕から伝わる体温が、何だか少し熱っぽく感じた。
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