梅雨

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「あの、夏目君」 腕、と告げると、夏目君がそっと手を離した。 「悪い」 「ううん」 険悪になりかけた空気を散らすように、鏡花ちゃんが「ねえ」と口火を切った。 「父さん、今回はどれくらいこっちにいられるんだっけ?」 「何だ、寂しいのか」 「違いますっ。ただの確認!」 話題を変えるためだけに振った質問だったらしい。からかわれ、頬を膨らます鏡花ちゃん。 「いてほしいって言うなら、しばらくこっちで仕事してもいいかな」 「えー…」 「遠慮すんなって」 「父さんいるとうるさいから、や」 「夏目だって小言ばっかじゃねえか」 「それは父さんに対してだけだと思うよ」 最後の突っ込みは、泉君からだった。 いつも通りの、微笑ましい光景。 わたしは、どうして。 こんなすばらしい場所に来ることができたんだろう…?
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