文月

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わたしは夏目君に告白されたことを、誰にも話していなかった。 話すとか話さないとか、それ以前に、自分が何をすべきかがよく分からなかった。 とにかく、混乱していたのだと思う。 まず初めに頭に浮かんできたのは、どうして、だった。 どうして、わたしなんだろう。 夏目君に好かれたいとは思っていたけれど、わたしはどこかで諦めていた。 無理だろうと決めつけて、何もしてこなかった。 人に好かれるような要素、明るさだとか楽しさだとか、そういったものはほとんど持っていない。 なぜ、わたしなのかと。 土屋君に好きだと言われたときには、何となくだけれど、分かるような気がした。 彼はわたしと正反対のようで、根っこの部分が似ていたから。 人との距離の取り方を、何でもないように見せながら、嘘みたいに緻密に計算してしまう。 彼もそうだと知っていたから、彼の前では何ひとつ繕う必要がなかった。 一緒にいるのは、心地よかった。 だから彼はわたしを選んでくれたのだろう、という確信めいたものがあった。 けれど、夏目君については。 全く分からない。 理由の見えない好意ほど、恐ろしいものはなかった。
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