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「上がって?」
促されるまま、室内に入る。間取りは1K。
「ごめん、ちょっと本が散乱してるけど」
二、三か所、小さな本のタワーができている以外は、すっきりと片付いているように見えた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
麦茶の入ったグラスを手渡され、そのひんやりさを手のひらで少し味わってからテーブルに置く。
するとつばさくんが、おもむろに言った。
「よかったね」
何のことかは訊く必要がない。わたしはただ静かに頷いた。
夏目君に気持ちを伝えてから、半月が経過していた。
両想いになったことを話したのは、千歳さんとつばさくんの二人だけだ。
龍之介さんに中也君、泉君に鏡花ちゃん…。家族には、まだ報告していなかった。
夏目君は気にしていないようだけれど、わたしは、家族の枠組みの中に恋愛を持ち込むことが。
正直、恥ずかしかった。
「順調?」
「えっと、…うん」
訊き方を間違えたな。
つばさくんは短く笑った。
「順調、じゃないところはどこかな」
わたしは気まずさを覚えながら、口を開いた。
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