葉月

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「つばさくんは?」 「え?」 「つばさくんも、こういう気持ちになること、あった?」 「ぼ、僕?僕は、そうだな…」 動揺しているらしく、一人称が以前のものに戻っていた。 「僕の話は、参考にならないと思う」 「え…?」 「でも、君と同じ気持ちは、知ってると思う。経験から言うと、大事なのは、相手のことばかり考え過ぎないことじゃないかな」 相手の、こと。 「相手の気持ちを完璧に理解する、なんて。神様でもない限り無理だよ」 それは、そうだと思う。 結局わたしたちは、自分が見ている花の色が、相手の見ているそれと同じかどうか、知る術を持たない。 赤いね、と。 言葉で綺麗にまとめて。 解り合ったような、通じ合ったような気持ちになっているだけかもしれない。 「それなら、もっと確かなものについて考えるべきだと思う」 「確かなもの?」 「自分の気持ちだよ」 つばさくんはそう言ってわたしの頭に触れた。 「君の気持ちは、君にとって、これ以上ないくらい確かなものでしょう」 言えなかった。 自分の気持ちがよく分からない、なんてことは。 でもきっと、彼女の言うことは正しい。 「自分の思うように、したいように。そういうふうに動いた方が、上手く行くこともあるから」 つばさくんも、そうだったの、と尋ねると。 彼女は頬を赤くして頷いた。
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