陽炎

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鏡花ちゃんを見送った後、わたしはまっすぐつばさくんの家に帰らなかった。 少し遠回りをして、大学のある通りに出る。 あまりこの辺りには来たことがない。 見慣れない街並みの中をぼんやり歩いていると、まるで夢を見ているような気がしてくる。 わたしはふらっと、ある店の前で足を止めた。 それは綺麗なレンガ造りの建物で、店の名前はわたしには読むことができなかった。 どうして、立ち止まってしまったのか分からない。 分からないけれど、わたしは引き寄せられるようにして店の中に入っていった。 入ってみて初めて、わたしはそこが画廊であることを知った。 値札の付いた大小の絵を、淡い光が照らしている。 一枚一枚、それらを眺め歩いていく。 無意識の内に、わたしは何かを探していた。 そしてそれは、西側の壁の左下に、飾られていた。
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