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木漏れ日の下、猫のようにまるくなって眠っている、少女の絵。
ただそれだけの、他愛ない絵だった。
「…お気に召しましたか?」
いつの間にか、側にお店の男性が来ていた。
「この絵は、最近入荷したんですよ」
「そう、なんですか」
30代くらいだろうか。白いシャツに黒のスラックスというシンプルな装いの男性は、やわらかく微笑んだ。
「私は、人の顔を覚えるのが得意なんです」
「…?」
「例え、それが絵画の中の人であったとしても」
わたしは静かに、彼の次の言葉を待った。
「お望みなら、その絵をお譲りしましょうか」
わたしは絵の中の少女に再度目を向け、彼女の首にかかっているロザリオに目を向けた。
その裏側を覗き見ることはできないけれど、裏返せばひとつの名前が彫ってあることを、わたしは知っていた。
同じものが今わたしの首から下げられている。
「おいくらですか」
彼は微笑みながら首を振った。
「貴女が望むなら、差し上げますよ。だってこれは」
「これ、は?」
「貴女のために描かれたものでしょうから」
わたしは反射的に泣きそうになるのをこらえた。
少女が光の下で幸福そうに眠るその絵には、「希望」というタイトルが付けられていた―…
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