陽炎

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絵には、サインの下に日付が記されていて、その絵が描かれたのが最近であることを示していた。 今もどこかで、彼は。 生きているんだ―… 自分の感情が、よく分からなかった。 嬉しいのか悲しいのか、それさえも分からなかった。 ただ、胸がいっぱいだった。 鏡花ちゃんの言葉を、今初めて理解したような気がする。 あのひとがわたしにくれた、強引な愛情も、それによって付けられた傷跡も。 わたしに、生きているという実感を与えてくれた。 全て、必要なことだった― 「どうなさいますか?」 買います、とわたしは相手の目を見て言った。 「本当に、お代は結構ですよ」 彼が本心から言ってくれているのは、分かっていたけれど、わたしは首を横に振った。 「昔、完全に切れてしまった繋がりを、もう一度つくりたいんです。今度は、わたしの意志で」 別に絵を一枚買っただけで、何かが大きく変わることはないと思う。 けれど、そうすることで、わたしが彼の絵を買ったという事実が生まれる。 今は、それで十分だった。
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