7人が本棚に入れています
本棚に追加
時間ちょうどに待ち合わせ場所を訪れた夏目君は、いつもと変わらないように見えた。
「あれ、俺遅れた…?」
「ううん、大丈夫です」
「よかった。じゃあ、中入ろっか」
変わりなく接してくる夏目君を見ていると、まるでこれが、ごく普通の恋人同士のデートのような気がしてしまう。
「行こ?」
「はい」
けれど彼は、わたしの手を引くことはしなかった。
そのことが、数日前と今との、大きな隔たりに思えてならなかった。
「ここに来るの、すげー久し振り」
「…いつ以来?」
「昔、十夜と来て以来だから、六年振りくらいじゃないかな」
わたしが小六のときのことで、夏目君はまだ大学生だった。
何かの偶然で二人きりになって、夏目君がここへ連れてきてくれた。
あのときはただ純粋に、夏目君が好きだった。
好きという気持ちひとつで十分だった。
そんな自分が今は懐かしく、ひどく遠いもののように感じる。
「どうして、今日ここにしたの?」
わたしは彼に尋ねた。
彼は言った。
「落ち着いて、話がしたかったから」
話。
わたしは頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!