陽炎

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時間ちょうどに待ち合わせ場所を訪れた夏目君は、いつもと変わらないように見えた。 「あれ、俺遅れた…?」 「ううん、大丈夫です」 「よかった。じゃあ、中入ろっか」 変わりなく接してくる夏目君を見ていると、まるでこれが、ごく普通の恋人同士のデートのような気がしてしまう。 「行こ?」 「はい」 けれど彼は、わたしの手を引くことはしなかった。 そのことが、数日前と今との、大きな隔たりに思えてならなかった。 「ここに来るの、すげー久し振り」 「…いつ以来?」 「昔、十夜と来て以来だから、六年振りくらいじゃないかな」 わたしが小六のときのことで、夏目君はまだ大学生だった。 何かの偶然で二人きりになって、夏目君がここへ連れてきてくれた。 あのときはただ純粋に、夏目君が好きだった。 好きという気持ちひとつで十分だった。 そんな自分が今は懐かしく、ひどく遠いもののように感じる。 「どうして、今日ここにしたの?」 わたしは彼に尋ねた。 彼は言った。 「落ち着いて、話がしたかったから」 話。 わたしは頷いた。
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