陽炎

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もしもし、とわたしは言った。 あまり人と会話していなかったので、少し、声がかすれてしまう。 「夜、ちゃん?」 鏡花ちゃんは確認するように、わたしの名前を呼んだ。 彼女らしくない、弱々しい声だった。 「うん。十夜です」 「今、どこにいる?」 「つばさくんの家に」 「そっか。今から、ちょっと会えない?」 話があるの、と彼女は小さく息継ぎをした。 「話…」 「夜ちゃんがこれからどうするかは、もちろん夜ちゃんが選ぶことだってわかってる。でも、どうしても、夜ちゃんが何かを選び取る前に、伝えておきたいことがあるの」 そこまで一息に言い切って、彼女は深く息を吸った。 「今いるとこから一番近い駅の、駅前のミスドに、十一時半ね」 後には、通話終了を表す電子音が空しく響く。 それはまるで、投げやりな告白のようだった。 話、か。 鏡花ちゃんの頼みとあっては断れない。 わたしは服を着替え、最低限外に出られる程度の身繕いを始めていった。
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