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メロンソーダをアルコールのようにぐいっと煽って、彼女は。
「夜ちゃん、何にもわかってない。夜ちゃんの過去がどんなだって、そんなの、もう今さらなんだから。夜ちゃんに昔何があったか、あたしも夏君も詳しいことは知らないけど、でも。夏君が好きになった夜ちゃんは、全てひっくるめた夜ちゃんだよ」
声を荒げることも、口調を強めることもなく、彼女は淡々と話し続けた。
「もちろん、話してくれないとわからないことはいっぱいあるけれど。その、昔の夜ちゃんがいてくれたから、今の優しい夜ちゃんがいるんだって。見てれば分かるよ」
青い炎を燃やすように、静かに彼女は怒っていた。
わたしはこんなときだというのに、それをひどく、美しいと思った。
「夏君を、あたしの兄貴を甘く見ないで。夏君は夜ちゃんが思うよりずっと、強いよ」
それに、と彼女は言葉を繋いだ。
「夜ちゃんが好きになった夏君は、『夜ちゃんのことが好きな』夏君だよ。だから、今さらなんだってば」
「それって…?」
「最初から、夏君は夜ちゃんのことが好きだったってこと。あたし、まだ小さかったけど、すぐに分かったもん。ああ、夏君は、この子のことが特別なんだなって」
夏君は何でもできて、優しくて、でも、それだけの男の子だった。
それを、夜ちゃんが、変えてくれた。
「信じられないなら、それでもいいよ。でも妹として、夜ちゃんにひとつだけ、お願いがあるの」
「何?」
「しあわせに、なって」
そう言って、彼女は泣きそうに微笑んだ。
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