748人が本棚に入れています
本棚に追加
急に辛いものが食べたくなった。
というより、食事もまだしてなかった事を思い出し、そこからの単純な連想だった。
彼女の家のカレーは、かなり辛いけどくせになる味だから。
部屋を出た俺は、エレベーターで一階へと降りた。
チーンと高い音が鳴ってドアが開く。
客室階の廊下と違って、微かに流れるBGMが耳に飛び込んでくる。
タイトルは分からないけど、よく聴くピアノの独奏。
二階まで吹き抜けのエントランスは、天気のせいなのか少し混雑していた。
スーツケースを引く父親くらいの年齢に見える二人組とすれ違う。
――部屋があって良かったなあ。
そんな言葉の最後に、おじさん特有のうなり声みたいな音が混じる。
季節外れの大雪で、電車も高速バスも明日の午後まで運休が決まってるらしい。
そうだ冬の歌、『なごりの雪』ってのもあるね。
更に世代は上になりそうだけど。
分厚いガラスの向こうを一瞥すれば、猫背になってる自分が映っている。
…………。
俺は、食事処の暖簾をくぐった。
最初のコメントを投稿しよう!