倉橋和也の日常Ⅰ

6/21
前へ
/126ページ
次へ
本当に今更だった。 だって俺あの日の夜、本当は全部気が付いていたんだ。 彼女の心が離れている事にも、 それから、彼女が本気で嫌がってる事にも。 俺、わりと勘は良い方だから。 分かってて、知ってて、その上で腕力にモノを言わせて押しきった。 既に壊れてる関係なら、嫌われようがどうなろうがどうでも良かった。 あの時俺、彼女を彼女としてなんか見てなかった。 好きだったから押しきったんじゃない。 どうでもいい女。 そこに心なんか無かった。 イライラと性欲を鎮めるための単なる自分勝手な行動に、手近に居た彼女を使っただけ。 それがあの時の俺の真実で、だから"それ"を彼女に言い当てられた時、彼女の目を見ることが出来なかった。 燻っていた後ろめたい気持ちが、一気に押し寄せる感覚。 そして、今もまだそれは現在進行形のままで、 あのこじんまりした黒い瞳に、自分のどろどろな中身を見透かされるが正直怖かったりする。
/126ページ

最初のコメントを投稿しよう!

748人が本棚に入れています
本棚に追加