倉橋和也の日常Ⅰ

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鮮明だった光の粒が、再びゆっくりとぼやける。 少しだけ和らいだ夜の色を分厚いカーテンで遮る。 窓辺に立つとやっぱり寒い。 そういえば、帰り道に見た電光掲示板はきっかり0℃を表示していて、 このホテルの並びの角にある都市銀行の前で、俺はマフラーを忘れてきた事を改めて悔やんだんだ。 ああ、そうだ……それから。 ふと思い出すのはコートのポケットの中身。 再びクローゼットを開けると、乾いた木の匂いが鼻先を通りすぎる。 取り出したのは、すっかり固くなった使い捨てカイロの白い塊。 冷たいとこまでは行ってないけど、暖かさはまるでない。 何となく似てる、かな。 落ち着かなくて電話してみて、結局また落ち着かない。 "まだ"落ち着かない。 いや、もう落ち着けないのかもしれない。 声を聞いて話をして、寒さは感じないけど、暖かさも感じない。 そこに有ったのは――――
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