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結果として出された答えが、世間の常識から考えて「いいか」「悪いか」はともかく、自分の中の答えを導きだした生徒は誰もが亜希を慕った。
教室には行けない子でカウンセラー室にひっそり登校してくる子も入れば、小早川みたいに特に悩みはなくても休み時間にお茶をしにくるだけの子もいる。
今の時代、一体、どれだけの大人が、子供達の声を文句も言わずにじっと聴くだろうか。
――誰しも心の中に闇を大なり小なり抱えている。
――誰しも目には見えない壁にぶつかって困惑する。
その時に手を差し延ばすことが愛情だと思われているが、必ずしもそれだけが愛情の示し方ではない。
自力で闇を克服し、壁を乗り越えるのを、じっと見つめ続けることも愛情の表れなのだ。
そして、それは大人も一緒。
亜希は高津と過ごす日々にも慣れてきた。
平日は学園に土日は高津のマンションにいる。
高津は学園に出勤する為のスーツは何着か用意してくれたが、普段着る服はとんと用意してくれる気配は無かった。
だから、今も土日の亜希は高津の服を着ている。
着替えを取りに、自分のマンションに一旦帰れば良かったのだが、久保に会う可能性がある以上、近づきたくなかった。
本当は学園も来たくはなかったのだが、高津は「それが君のお父さんとの約束だから」と、毎朝、学園近くまで車で送り届けてくれる。
「――自由を謳歌したいなら、責任も果たさないと。君の場合には『心身の健康を取り戻して、復学、復職する』だ。」
そんなもっともらしい事を言って、くすくすと笑った高津を思い出すと、亜希は小さくため息を吐いた。
だいたい父との話は、もっと手間取ると思っていたし、実家に返されるものだと思っていたのに、高津の手にかかったら五分程度で和解となり、しかも、高津と一緒にいる事を認められてしまった。
(……本当、ヒトを丸め込むのが上手なんだから。)
しかも、父の説得する口実は、亜希の体調と精神的な安定のせいにして、自分には全く火の粉が掛からないように立ち回ったのには舌を巻く。
でも、そんな風に立ち回る高津の心は、心理学を修めたはずの亜希にもよく見通せなかった。
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