14

2/22
45人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
「――宮原に篠崎まで!」 「亜希ちゃんセンセの予約、ちゃんと取ってあるからさッ!」 「……あのなあッ!」  くすくすと小さな笑い声がして、亜希が顔を覗かせる。 「……みんな、久保先生が心配なんですって。」  久保はその声に硬直した。  ゆっくり声がする方に振り返る。 「……亜希。」  にっこり微笑む亜希は、年相応に見える。 「……こちらの席へどうぞ。アロマも焚いてあるから、気分も落ち着くはずよ。」  それは、久保に甘えてきていた亜希とは違って見えた。  あんなに亜希から離れようと決意していたはずなのに、思わず脱力する。 「……久保先生?」  そして、何かに憑かれているかのようにふらふらと吸い寄せられた。 (――この雰囲気、亜希のご両親に似てる。)  強くどこまでも優しい眼差しは父親似で、柔らかな母親似の声は久保の心を癒してくれる。 (……親子なんだから、当たり前なんだけど。)  でも血のつながり以上に、亜希は人を癒す仕事が天職なんだと久保は感じた。 「どうかした?」 「いや……。少しボーッとしただけ。」  甘酸っぱい良い香りが漂う。 「……シトラス?」 「ええ、好きでしょ? この香りはね、リラックス効果と元気にする効果があるの。」 「……そうなんだ、知らなかった。」  柑橘系の香りは久保も好きで、時々オーデコロンを付ける。 「リラックスと元気……か。」 「2-3は久保先生が大好きみたいね。あの子達以外にもあなたの元気が無いって、何人も心配して相談にきたし。」  上体を少し起こしたベッドに横になるように言われて、久保は素直に従った。  亜希は久保の手を取る。  ――柔らかな手。 「……緊張してるとね、寝ても疲れが抜け切らないのよ。眠りたかったら、眠って構わないから。」  そういうと、久保の目の辺りにタオルを置き光を遮る。  カチャカチャと音がして、人肌で温められたアロマオイルの香りが久保を包んだ。  亜希が労るようにマッサージをしてくれる。 (亜希から離れたかったのに……。)  心に蓋をしていた想いは、亜希に触れられると簡単に鍵が外れてしまった。  どこかで「万葉と結婚なんてしないで」と言って欲しかったのかもしれない。 「……もし、俺が結婚したら、亜希はどうする?」  久保は呟くように訊ねる。  亜希のマッサージをする手は、一瞬、動きを止めた。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!