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タクシーが次第に彼の家へと近づくに連れて、何とも言えない気持ちに、……どうにかなりそうだった。
いくら妹の合意の上だとしても、その彼氏の家をこんな時間に訪問するのはどうかと思う。
かといって、連絡先も何も知らない。
知ってるのは、住んでる家だけなのだ。
……彼に会いに行くのはこれで二度目だ。
けどこの前より、心拍数が上がってしまうのは気のせいだろうか……。
「はぁ……」と自然に何度も出るため息の数。
タクシーの窓が曇りを増していくのは、吐く息が白いせいなのかもしれない。
――――…
「お客さん、着きましたよ」
目を閉じていると、その声で現実に引き戻された。
彼の家を訪れたのは、たった一度だけなのに……その家が記憶に残ってるなんて、おかしくてたまらなかった。
「ありがとうございます」
私は震える声でそう言って、財布片手にタクシーを降りた。
アスファルトに両足をつけると、冷たい感触が襲ってきた。
裸足で小石を踏みつけながら、呆然と彼の家の“桐原”という表札を眺めた。
その横のインターホンに手を伸ばしてみるが、押す勇気がなかった。
彼にどう説明したらいいの?
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